ハードボイルド 8 It never entered my mind

そんな男はいない事になっていた。昨今はコンプライアンスと会社内で騒がれ、従ってそんな事はあり得ない。。。ビジネスがらみよっぽど行き詰まった時電話をする。一見発展し巨大な利益が出ているようなビジネス。。でもやっぱり必要悪はある。日本のねっとりとした政治家もまじえての嫌な裏の社会。xx新聞の天声人語を書いていて、退職後大学で教えていた教授に裏の社会をジャーナリストになって見たいと言ったら、ジャーナリズムは建前だけで、本当の闇はビジネスの中で見れると言われた。アメリカはクリーンでビジネスライクなものと思っていた。実際はJewish, Chinese, またラテンアメリカをまじえての日本よりもっと汚いものだ。
普段の単調なビジネス。トヨタ、ソニー、アップルなどの名前が出ている時はそんなことは中国案件であろうとインド案件であろうと起こらない。
電話する事は滅多にない。電話すると、もうこれはダメだなとあきらめている事もほとんど何もなかったかの様に全ては終わる。
一度だけ向こうから連絡があった事がある。ある関係会社の社長が自殺をした。どう考えても自殺をするはずはなく、理由も見つからない。ビジネスとしては終わった事だが、しっくりせず彼の自殺の真相を調べていた時だ。
彼は言った。
これ以上この件はやめにしておくべきだ。と。
率直に従った。葬式の日、彼の妻がビジネスで関係のある商社マンと笑っているのを思い出した。彼の位牌を両親に渡し、彼女は日本には帰らずその会社のあるベトナムの地にとどまった。
人生には知っていい事と知らない方がいい事がある。

ハードボイルドでもなんでもない場所。
LAのTorrance AveとHawthorn Blvdの交差点にひっそりとそのCDショップはあった。彼がいない時は、やる気のないメキシコ人がレゲエを大音量でかけている。彼がいる時はJazzだ。
初めてその店へ行くと彼はマイルス デービスの
Workin'の擦り切れたLPをターンテーブルにかけた。
カウンターへ行くと名乗る前に彼は尋ねた。
マイルスは好きか?
LAにいるくせに、カントリーが好きなオヤジの様に南部訛りの強い発音。
It never entered my mind.
レッド ガーランドじゃなくビル エヴァンスならどんな風に弾いたんだろうか?と私は独り言の様に呟いた。きっとマイルスとの一緒のライブで短い期間弾いているはず。でもそんな録音はどこにもみあたらない。このアルバムの
In your own sweet wayはエヴァンスも弾いているよ。と言ってキースジャレッドではなくビルエヴァンスの冗談のような名前のケルン コンサートを今度はCDで聴かせてくれた。
キースジャレッドはスタンダードでこの曲をやっている。